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​ごあいさつ

花舞

背景に花が舞う。

 初めて歌舞伎を観たとき、舞台美術や装束、袖のしわ一つに至るまでが絵画のように美しく、まるで日本画や浮世絵の世界がそのまま動いているような舞台に、強い感動を覚えました。役者の所作や装束、舞台の構成が一体となって、現実を超えた華やかな世界が広がる光景に心を奪われました。

 四季が移ろい、花が舞う世界はどうしてこんなにも心が躍るのでしょう。私は自身の作品において、人物の周りに花が舞う光景を繰り返し描いてきました。幼少期に夢中になって読んでいた、時折り花が舞う少女マンガの世界が、私にとっての原風景として深く根付いています。それは現実に咲いている花を忠実に描こうとしているのではなく、画面の中に彩りや季節感、動きをもたらすための表現です。

 そうした表現の源をたどると、江戸時代の浮世絵にも、現実の風景とは異なる花や装飾が描かれていることに気づきます。

 当時、歌舞伎役者の絵を多く手掛けた人気浮世絵師・歌川国貞は、役者絵の背景に現実にはない花や装飾を描き入れました。西洋では写実表現が発展しましたが、日本では描き手が見せたいものを強調・デフォルメする表現が育まれてきました。花の表現もその一つで、人物の姿をより華やかに、魅力的に引き立てます。

 本展では、松竹株式会社演劇ライツ部の監修のもと、歌舞伎の女方の代表的な演目の一場面を、現代のポップカルチャーイラストの画風で描き直した「見立絵」を制作しています。また、浮世絵の一種である藍摺り絵の表現は、私が描き続けてきた一色や二色による色彩表現にも通じています。 本展では、ベロ藍(プルシアンブルー)をメインで使った三色塗りの作品も制作しました。

 何百年も受け継がれる花が舞う表現と歌舞伎の舞台。そうして人から人へ脈々と連なる表現者の熱量への畏敬を胸に、ポップカルチャーイラストを現代の絵画として描くこと。それが今回の作品の試みです。

 

2026年4月29

たくさんの愛を込めて

優子鈴

優子鈴ごあいさつ

​ご寄稿文

温井さまご寄稿文

伝統と革新で描く、新たな「花」の舞姿

松竹株式会社

温井英哉

​玉置国大

四百年余の歴史の中で、 歌舞伎は伝統を継承するだけでなく、 常に時代の流行や風潮を捉え、その時代に生きる人々の心を打ち続けてまいりました。

そして令和となった今日、江戸時代より「芝居町」として栄えてきた銀座の地において、絵画(≒伝統)とポップカルチャー(≒革新)の両軸に挑み続ける優子鈴氏の手により、歌舞伎の精神は新たな光と色彩をもって相まみえることとなりました。

本展で描かれるのは、 歌舞伎の中でもとりわけ華やかで、 また深く重厚な情念を抱く女性たちです。

桜花爛漫の春、 親の仇への怒りと夫への切ない思慕を幻想的に表現する 『祇園祭礼信仰記』の雪姫。新緑の初夏、藤の花の精が娘の姿で女心を艶やかに踊る『藤娘』 。

秋、死んだと聞かされていた許嫁への燃え上がる恋慕を描く『本朝廿四孝』の八重垣姫。

冬、人に非ざる者が人に恋して思い悩み、苦しき胸の内を踊る『鷺娘』 。

そして再び巡る春、 恋しさのあまり大蛇と化した清姫の怨霊が、 恋する娘として一時間に渡り踊りぬく大曲『京鹿子娘道成寺』 。

いずれも歌舞伎の女方を代表する役どころですが、優子鈴氏の筆はこれら古典の美を単なる再現(あるいはデフォルメ)に留めません。

歌舞伎ならではの色彩豊かで豪華絢爛な衣裳や、所作の細部に至るまで精錬された美意識は、 極めて高度で応用的な透明水彩技法により鮮やかな光へと変換され、 紙面上を舞台に情念を溢れさせる少女たちの姿をありありと描き出します。

ポップカルチャーという現代の文脈で描かれる少女たちが、歌舞伎という古典の意匠を纏う。 それは我々が守り伝えてきた伝統が、 決して静止した過去ではなく、 今もなお瑞々しく拍動し続けていることを証明してくれています。

優子鈴氏が伝統的な技法で革新的に描く、繊細で艶やかな「花」の舞。

儚さを漂わせる少女たちが放つ、 力強い情念と鮮やかな輝きを通して、 銀座の地にて大切に育まれてきた「日本の美」の新たな可能性を感じていただければ幸いです。

© 2022 Yukoring

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